横溝正史『人面瘡』を読んだ

書評のようなもの

初出は『講談倶楽部』1949年12月号。この作品の舞台は信州で、金田一耕助の登場もありませんでしたが、1960年7月の『続刊 金田一耕助推理全集第2巻』収録の際、舞台を岡山に移すと同時に、金田一もの(磯川警部も?)に改稿されたそうです。

評価

世界観:4点

『不死蝶』に続く地方モノ。岡山・鳥取県境の湯治場が舞台。『八つ墓村』付近かよ。洞窟内の彷徨が大きなウエイトを占めている点も『八つ墓村』を連想させます。

ストーリー:4点

ヒロインが自身の過去に口を閉ざしていることで、秘された事件に対する興味は否応なしに盛り上がる。伏線の提示と回収が巧み。

人物造形:3点

短編なので、登場人物の描き方は少々浅い。それにしても横溝翁って「由紀子」という女性名が好きなのか、頻繁に登場しますね。

サスペンス:3点

ヒロイン?の身体に出現した人面瘡の不気味さはともかくとして、サスペンス性は少々物足りない。火傷痕の男・田代(「田代」姓も『不死蝶』に出てきたな)とか、不審な人物も登場するけど。
事件とは直接関係ないが、人面瘡の原因(?)についての説明で、『ブラックジャック』のピノコ(こちらは畸形嚢腫)を思い出した。
それにしても横溝翁って、夢遊病・夢中遊行を多用しますね。

論理性:3点

致命的な矛盾は見当たりませんが、後述するように死体処理については、実現性が疑問。

意外性:3点

意外といえば意外ですが、なんせ登場人物が多くないので……。

トリック:3点

殺害方法のトリックは、ありがちだけどOK。しかし、この犯人にこのような方法での死体処理は無理ではないか。

文章・文体:4点

安定の横溝節。東京舞台ものよりも情趣に浸ることができます。

合計27点/40点満点。

以降、ネタバレです!

考察

作品のボリュームが小さいのでツッコミどころも少ない。というか、どうしても言及したいのはここだけ。

死体遺棄は無理じゃないでしょうか

殺人・死体遺棄の犯人はお柳さまという老女。しかし彼女は

宿の隠居のお柳さまというのが、半身不随でながく寝ている
〈中略〉
「母(お柳さま)は畳を這うよりほかには、身動きもできない体だった」

殺害行為の方は、まあ頑張れば何とかなるかもしれない。
被害者の由紀子は眼病を患っていたため、彼女が盥で洗眼するように巧みに誘導し、不自由な身体に鞭打って全体重をかけて──お柳さまは肥満体だった──由紀子が溺死するまでその顔を盥の水面下に沈め続けることができたなら。
それでも、健康な若い女性が相手だから、ひとつ間違えると逆襲をくらう危険がある。

一方の死体遺棄。金田一の説明では、由紀子殺害後、すべての衣服を剥ぎ取り、

その窓からうらの渓流へ屍体を投げ落した

ということだが、半身不随で畳を這うことしかできない老女に、若い女性の死体をかかえて窓から投げ落とすなんて芸当ができるのか。無理であるように思う。

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