横溝正史『不死蝶』を読んだ

書評のようなもの

初出は1953年6月~11月の雑誌『平凡』。のちに加筆して、1958年に加筆して『金田一耕助 推理全集第1巻』として東京文芸社から刊行されたそうです。
ちなみに『平凡』って、おもに芸能ネタを扱う週刊誌でしたよね。

この作品は、原作を読む前に映像作品を視てしまいましてね、若かりし日の竹下景子がヒロイン・鮎川マリを演じた1978年の横溝正史シリーズⅡ

わりと原作に忠実に作られていました。とりわけ、康雄と都のロマンスや、ラストでの父娘の名乗りのシーンはむしろ原作よりも丁寧に描かれていて、製作側の熱意と良心が感じられるドラマであったように記憶しています。
ただ、峯子役の岩崎加根子。原作では険のあるヒステリックな美人という設定だけど、ドラマでは夫に顧みられない妻の幸薄さが印象的でした。

評価

世界観:4点

せっかく東京を離れての地方(信州)モノなので、もう少し射水なる町をヴィヴィットに描写しても良かったかと。『八つ墓村』を彷彿させる、横溝翁十八番の舞台設定〈洞窟内の彷徨〉は健在。怪奇に華を添える底なし井戸もいいですね。

ストーリー:4点

「〇十年前の事件」が遠因となっているところも、横溝翁お得意の設定。『女王蜂』や『悪魔の手毬唄』でおなじみです。

人物造形:4点

母親の冤を雪ぐためにブラジルからはるばる来日したヒロイン・鮎川マリ。大富豪の養女にして類まれな美貌の持ち主、しかも家庭教師付きとくれば、『女王蜂』の大道寺智子が重なりますが、智子に比べてマリは躍動感に欠けている印象。
事件に対しては完全に受け身の立場である智子にひきかえ、マリは雪冤の目的で自ら事件の一部を企画して能動的に関わっているので、マリの方が活発であるべきはずなのですが……。
『女王蜂』の場合は、多聞連太郎なるヒーローと智子の絡みが、作品に活気と高揚感を与えているのかもしれませんね。
その他、田代の存在は不要といえば不要ですが、由紀子との丁々発止が暗く沈みがちな雰囲気に多少の明るさをもたらしています。

サスペンス:4点

黒い衣装を身にまとい、ベールで顔を隠した正体不明の女が洞窟を徘徊する。う~ん、ミステリアス。

論理性:3点

致命的な矛盾は見当たらないものの、ツッコミどころや未回収の伏線が目立ちます。

意外性:4点

メイントリックの○○○○は看破可能ですが、真犯人はともかく、動機というか犯行に至る経緯は意外と言えば意外。

トリック:3点

○○○○トリックが使われていますが、鮎川君枝の実在を疑うべき伏線が少々多いので、わりと早い段階でネタバレしてしまいます。

文章・文体:4点

安定の横溝節。東京舞台ものよりも情趣に浸ることができるので、正直4.5点としたいところ。

合計30点/40点満点。

次ページはネタバレです!

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