横溝正史『火の十字架』を読んだ

書評のようなもの

角川文庫版『魔女の暦』に収録された中編です。初出は1958年(昭和33年)発行月不明の『小説倶楽部』。小説中の事件の発生年も、同じく昭和33年とされています。

Bitly

「劇場」「ヌードダンサー」「浅草」という単語が頻繁に登場することからもわかるように、表題作『魔女の暦』と似通った雰囲気の作品なので、出だしから食傷を感じてしまいます。どうせ中編2編を収録するなら、毛色の違う作品にしてほしかったところですが……。

ただ、物語の深みという点では『火の十字架』にやや軍配が上がるか。事件の遠因が大戦末の混乱期に遡るという設定も、自分好みです。

評価

世界観:3点

乱れた、というか、かなり異常な人間関係を軸に構成された異常な空間の中で事件が展開する。あまり感情移入はできない。

ストーリー:4点

トランク詰めの美女は、何となく『蝶々殺人事件』を彷彿させる。横溝翁好みか。

人物造形:3点

『魔女の暦』に比べて、この点は浅いように思う。

サスペンス:3点

殺害方法が際立って残虐という意味での恐怖というかおぞましさはあるが、ハラハラドキドキの展開ではない。

論理性:4点

後述の二つの点(厳密にはロジカルな問題とは言えないが)を除いては問題なし。

意外性:3点

これは弱い。人相の良くない復讐者として小栗が登場した時点で「ああ、これは犯人じゃないな」とわかってしまう。

トリック:4点

トランク詰めにした動機が一見突飛なように感じたが、犯人のシナリオに一貫性はあり、矛盾はない。

文章・文体:4点

安定の横溝節。

合計28点/40点満点。

次ページはネタバレです!

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