島田荘司『占星術殺人事件』を分析してみた

書評のようなもの

以降、ネタバレです!

考察

梅沢平吉の手記

その人でないと書けないような詳細でリアルな記述で、お人好しは早くもここで騙される(自分は騙された^^;)。
とりわけ、アムステルダムで観た無名彫刻作家の個展の話とか、アゾート設置の場所に関する記述とか……平吉は時子をかわいがっていたということで、時子は父親から綿密に聞き出したという設定なのだろうけど、時子の頭脳の明晰さを印象づける狙いもあるのか。
ただ、煙草の煙や音楽に関する記述で、真の記述者が平吉でないことを示唆する小さな綻びを設けているところは流石。

指紋の問題

石岡和己をはじめ、梅沢平吉生存説を唱える者が多いようだが、指紋を綿密に調べれば一発でその可能性は消去されるのではないか。

「指紋も目新しいものはなし。モデルのものと思われる指紋はあったが、平吉は何人もモデルを使っていたからね。謎の男靴のものと思われる指紋はなし。ただ吉男のはあったから、彼が男靴ならね、あったことになるけど。それから故意にハンカチで指紋を拭き取ったという形跡も認められなかった」

光文社文庫版『占星術殺人事件』P77

石岡は、平吉が事件の直前に見ず知らずの第三者を巷で発見し、その男を替玉に仕立てて殺した、と主張する。
事実がそのとおりだとすると、替玉の指紋が平吉のものだと誤認されるように、アトリエから平吉の指紋をすべて消し去り、代わりに替玉の指紋を意図的に残しておかないといけない。

どうやって?

横溝翁の『本陣殺人事件』のように手首を斬り取って指紋スタンプとして使ったわけではないから、死体をアトリエのあちこちに引きずっていって手首を持ってベタベタやった? 死体が動かされた形跡があるとか、どこかに記述があったように思うが、それにしても意図的な工作につきものの不自然さが残るのではないか。

指紋の問題に限って言えば、まだ弟・吉男との入れ替わり説のほうが容易だろう。ただ、吉男のアリバイや、彼の家族が吉男と平吉を間違えるかという点を考えると、御手洗の言うように平吉-吉男の入れ替わりもあり得ない。

足跡の問題

予想外の降雪という設定は『本陣殺人事件』と同じだが、本作では犯人が意図的に足跡を偽装するというトリックを弄している。この状況説明がくどくて、正直読んでいて疲れた。
結局トリックの目的は、捜査の方向を「ベッド吊り上げ」あるいは「男の犯行」にミスリードし、ひいては読者を袋小路に導くことだが、作中で御手洗も言及しているように男靴だけでよかったのではないか。加えて、南側窓の外に多数の足跡を乱雑につけておけばベッド吊り上げも仄めかせるし。

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