横溝正史『本陣殺人事件』を分析してみた

書評のようなもの

初読は中学生の頃。角川文庫版の表紙──黒猫と女の子(鈴子?)の顔が上下に重なっているやつ──と、表紙裏の梗概に〈初夜の褥を鮮血に染めて斃れ伏す新郎と新妻……〉とか何とか書かれていたのを覚えています。ちなみに、黒猫&女の子の表紙はkindole版も同じでした。

久しぶりにしっかり読み込んでみて、改めて横溝翁の意気込みが行間に溢れている作品だと感じました。終戦を迎えて、それまで抑圧されていた横溝翁の創作意欲が爆発しています。名作です。

作品成立の経緯はWikipediaでも参考にしていただくとして、エラリー・クイーンの『探偵小説批判表』やその他の資料を参考に考案したオリジナルの評価基準を使って、本作を分析してみました。

評価

世界観:5点

純日本家屋には不向きとされていた密室殺人を初めて描いた作品であり、全編通して“日本情緒”が強烈。

プロット:4点

非常にすっきりした展開で、無駄や冗長さは感じられない。ちなみに分量の割合はさっと次のとおり。

  • プロローグ:5%
  • 事件発生までの導入:10%
  • 事件発生から警察の捜査まで:23%
  • 探偵登場から探偵による調査まで:35%
  • 解決編とエピローグ:27%
人物造形:4点

生存中の賢蔵の描写は当然のことながら少ないが、登場人物の言葉で人物像は浮き彫りにされている。彼の人柄を最も生き生きと言い表しているのが、一面識とてない金田一というのは皮肉だが。
鈴子の描写もなぜか微笑ましいが、著者言うところの「性格破綻者」である三郎の異常性が描ききれていないように思う。凡人にしか見えない。もっとも、あまり異常性を強調すると、読者に裏読みをさせてしまうかもしれないけど。

サスペンス:4点

不気味な三本指の男の存在と意味深長な琴アイテムが随所に散りばめられていて、妖しさを醸し出している。横溝翁が当初『妖琴殺人事件』というタイトルをつけていたのも頷ける。

論理性:3点

金田一の推理に論理の飛躍や説明不足を感じる箇所がある。糸子刀自の紋付きの袂に隠された琴柱の問題や殺害時の克子の状態など。これらは長くなるので後述。

意外性:3点

当初から自殺という可能性を含んだ密室が舞台であるため、意外性には若干乏しい感じ。

原作を読んで脳内でイメージしたのと、映像作品を見たのと、どちらが先だったか記憶にないのだが、石燈籠の脇に日本刀が突き立ったシーンは鳥肌が立った。ただし、それ以外の小細工ではいくつかの疑問がある。これもまとめて後述。
金田一に機械的トリックについてダメ出しさせながら、本作ではその機械的トリックを使っているが、仕掛けに水車、石燈籠、鎌、そして琴という和風アイテムを散りばめることで、機械的トリックの無機質さ・冷たさが払拭されている。

文章・文体:4点

横溝翁の文体は、基本的にソフトで読みやすいのだが、一部、同じ表現が近接していたり、まどろっこしく感じる箇所がある。ま、好みの問題だけど。
あと、銀造は「耕助君」と「耕さん」と二通りの呼称を使うけど「耕さん」に統一したほうが……。

以上、合計31点/40点満点。

最も好きなのはエンディングの描写。余韻が心地よいのです。

そこには、ひがん花とよばれる、あの曼珠沙華の赤黒い花が、いちめんに咲いているのであった。ちょうど可憐な鈴子の血をなすったように。……

次ページはネタバレです!

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