横溝正史『支那扇の女』を読んだ

書評のようなもの

幾度かにわたって形を変え、現在……といっても1960年出版時の姿に落ち着いた作品。もともとは『ペルシャ猫を抱く女』という短編でした。これも昔、読んだことがあります。女性をモデルとした絵画と華族令制定の時期が事件の鍵になる点は同じ。

あらすじ

昭和32年8月20日の早朝、パトロール中の成城署の木村巡査は、小田急線の陸橋から飛び降り自殺を図った若い女を取り押さえた。騒ぎを聞いて駆けつけた近所に住む歯科医・瀬戸口らの話から、女は小説家・朝井照三の妻・美奈子だと判明。ところが、彼女を自宅まで送り届けた木村巡査らは、薪割りで惨殺された二人の女の死体を発見する。犠牲者は照三の義母と若い女中であった。
捜査の過程で金田一耕助や等々力警部は、美奈子が自分を、『支那扇の女』と呼ばれる八木克子という大叔母にあたる女性の生まれ変わりだと思い込み、強い宿業の念に苛まれていることを知る。
八木克子は元子爵夫人で、明治19年に夫と姑、義妹に対する毒殺未遂容疑で逮捕され、獄死したという女性。また克子をモデルに明治15年に描かれた『支那扇の女』は、日本洋画史上に残る傑作と称賛されたが、そこに描かれた顔は美奈子に生き写しであったという。
さらに美奈子の夢中遊行という病癖も明るみになって、事件が複雑怪奇さを増していく中、新たな殺人が起きる……。

珍しくも洋装の金田一が活躍したり、『夜歩く』でもお馴染みの横溝翁お得意の夢遊病発症者が登場したり、『八つ墓村』にも登場した「○○様には及びもないが、せめてなりたや△△様」の唄が紹介されたり、『扉の影の女』や『病院坂の首縊りの家』でも活躍した前科者・多門修が金田一の助手として初登場したり……と、見どころは随所に散りばめられていますが、全体的にはツッコミどころ満載の残念な作品になってしまっています。

次ページはネタバレです!

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